介護保険法案要網案
                               平成8年6月17日
第一 総則

一 目的等
 1 加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により介護を要する者等がその有する能力に応じ自立した目常生活を営むことができるよう必要な保健医療サービス及ぴ福祉サービスに係る給付を行い、国民の保健医療の向上及ぴ福祉の増進を図ることを目的とすること。
 2 保険給付は、要介護状態の軽減若しくは悪化の防止又は要介護状態の予防に資するよう行われるとともに、医療との連携に十分配慮して行われなければならないこと。
 3 保険給付は、被保険者の選択に基づき、適切な保健医療サービス及ぴ福祉サービスが、多様な事業者又は施設から、総合的かつ効率的に提供されるよう配慮して行われなけれぱならないこと。
 4 保険給付の内容及ぴ水準は、被保険者が要介護状態となった場合においても、可能な限り、その居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように配慮されなければならないこと。
二 保険者
  市町村及ぴ特別区は、介護保険を行うものとすること。
三 国民の努力及ぴ義務
 1 国民は常に健康の保持増進に努めるとともに、要介護状態となった場合においても、進んでリハビリテーションその他の適切な保健医療サーピス及ぴ福祉サービスを利用することにより、その有する能力の維持向上に努めるものとすること。
 2 国民は、共同連帯の理念に基づき、介護保険事業に要する費用を公平に負担するものとすること。
  四国及ぴ都道府県の責務並ぴに医療保険者の協力国及び都道府県は、介護保険事業の運営が健全かつ円滑に行われるよう必要な措置を講じなければならないこと。医療保険者は、介護保険事業が健全かつ円滑に実施されるよう協力しなければならないこと。
五 用語の定義
 1 要介護状態
   「要介護状態」とは、身体上又は精神上の障害があるために、入浴、排せつ、食事等の日常生活における基本的な動作の全部又は一部について、厚生省令で定める期間にわたり継続して、常時介護を要すると見込まれる状態であって、その介護の必要の程度に応じて厚生省令で定める要介護状態の区分のいずれかに該当するものをいうこと。
 2 要介護状態となるおそれがある状態
   「要介護状態となるおそれがある状態」とは、身体上又は精神上の障害があるために、厚生省令で定める期間にわたり継続して、日常生活を営むのに支障があると見込まれる状態であって、要介護状態以外の状態をいう。
 3 要介護者
   「要介護者」とは、次のいずれかに該当するものをいうこと。
  (1)要介護状態にある六十五歳以上の者
  (2)要介護状態にある四十歳以上六十五歳未満の者であって、その要介護状態の原因である身体上又は精神上の障害が加齢に伴って生じる心身の変化に起因する疾病であって政令で定めるもの(以下 「特定疾病」という。)によって生じたものであるもの
 4 要支援者
   「要支援者」とは、次のいずれかに該当する者をいうこと。
  (1)要介護状態となるおそれがある状態にある六十五歳以上の者
  (2)要介護状態となるおそれがある状態にある四十歳以上六十五歳未満の者であって、その要介護状態となるおそれがある状態の原因である身体上又は精神上の障害が特定疾病によって生じたものであるもの
 5 居宅サービス等
   「居宅サービス」とは、訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、通所介護、通所リハビリテーション、短期入所生活介護、短期入所療養介護、痴呆対応型共同生活介護、特定施設入所者生活介護及ぴ福祉用具貸与をいい、「居宅サーピス計画」とは、
   要介護者等が居宅サーピスの適切な利用ができるよう、その依頼を受けて、利用するサービスの種類内容、担当者等について居宅介護支援事業者が作成する計画をいうこと。
 6 介護施設サービス
   「介護施設サービス」とは、生活介護施設サービス、保健介護施設サービス及ぴ療養介護施設サービスをいい、「介護施設サービス計画」とは、介護施設に入所している要介護者について、当該介護
  施設が提供するサービスの内容、担当者等を定めた計画をいうこと。
 7 生活介護施設
   特別養護老人ホームであって、当該特別養護老人ホームに入所する要介護者に対し、介護施設サービス計画に基づいて、入浴、排せつ、食事等の介護その他の目常生活上の世話、機能訓練、健康管理及び療養上の世話を行うことを目的とする施設をいうこと。
 8 保健介護施設
   要介護者に対し、介護施設サービス計画に基づいて、看護、医学的管理功下における介護及び機能
  訓練その他必要な医療並びに日常生活上の世話を行うことを目的とする施設として、都道府県知事の
  許可を受けたものをいうこと。
 9 療養介護施設
   医療法に規定する療養型病床群(その全部又は一部が専ら要介護者を入院させるものに限る。)又は都道府県知事の許可を受けた病院その他のこれに準ずる病院であって政令で定めるものの病床のうち痴呆の状態にある要介護者の心身の特性に応じた適切な看護が行われるものとして政令で定めるもの(以下「療養型病床群等」という。)を有する病院であって、当該療養型病床群等に入院する要介護者に対し、介護施設サービス計画に基づいて、療養上の管理、看護、医学的管理の下における介護その他の世話及ぴ機能訓練その他必要な医療を行うことを目的とする施設をいうこと。
 六 審議会に間する規定
第二 被保険者
 一 被保険者
 1 市町村の区域内に住所を有する六十五歳以上の者(第一号被保険者)
 2 市町村の区域内に住所を有する四十歳以上六十五歳未満の医療保険加入者(第二号被保険者)
 二 介護施設に入所中の被保険者の特例
   介護施設に入所することにより当該介護施設が所在する市町村の区薄内に住所を有するに至った被保険者であって、当該介護施設に入所した際他の布町村の区域六に住所を有してギたと誘めらねるものは、当該他の市町村が行う介護保険の被保険者とする等、特例を定めること。
第三 介護認定審査会
 一 介護認定審査会
   被保険者が要介護状態に該当することの審査及ぴ判定等(審査判定業務)を行わせるため、市町村に介護認定審査会を置くこと。
 二 委員
   介護認定審査会の委員は、要介護者等の保健、医療又は福祉に関する学識経験を有する者のうちから、市町村長が任命すること。
第四 保険給付
 一 通則
 1 この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とすること。
  1 被保険者の要介護状態に関する保険給付(介護給付)
  (2)被保険者の要介護状態となるおそれがある状態に関する保険給付(予防給付)
  (3)その他、要介護状態の軽減若しくは悪化の防止又は要介護状態の予防に資する保険給付として条例で定めるもの(市町村特別給付)
  2 市町村の認定
  (1)介護給付を受けようとする被保険者は、要介護者に該当することについて、市町村の認定(要介護認定)を受けなければならないこと。
  (2)予防給付を受けようとする被保険者は、要支援者に該当することについて、市町村の認定(要支援認定)を受けなければならないこと。
 二 介護給付
  1 居宅介護サーピス費の支給
  (1)市町村は、要介護認定を受けた被保険者(要介護被保険者)のうち居宅において介護を受けるものが、自己の選定する指定居宅サーピス事業者が提供する居宅サーピス(指定居宅サービス)を受けたときは、居宅介護サービス費を支給すること
  (2)居宅介護サーピス費の額
    ア 訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、通所介護、通所リハピリテーション及ぴ福祉用具貸与居宅サービスの種類ごとに、内容、地域等を勘案して算定される平均的な費用の額を勘案して厚生大臣が定める基準により算定した費用の額の百分の九十に相当する額
    イ 短期入所生活介護、短期入所療養介護、痴呆対応型共同生活介護及ぴ特定施設入所者生活介護居宅サービスの種類ごとに、要介護状態区分、地域等を勘案して算定される平均的な費用の額を勘案して厚生大臣が定める基準により算定した費用の額の百分の九十に相当する額
  2 特例居宅介護サービス費の支給
    市町村は、要介護被保険者が、要介護認定の効力が生じた目前に緊急その他やむを得ない理由により指定居宅サービスを受けた場合、基準該当居宅サービスを受けた場合及ぴ離島その他の地域で指定
   居宅サービス及ぴ基準該当居宅サービス以外の居宅サーピス又はこれに相当するサービスを受けた場
   合において、必要があると認めるときは、特例居宅介護サービス費を支給すること。
  3 居宅介護サーピス費等に係る支給限度額
    一月(三月)当たりの居宅介護サービス費の額の総額及ぴ特例居宅サーピス費の額の総額の合計は、厚生大臣の定める居宅介護サービス費区分支給限度基準額の百分の九十に相当する額を超えることができないこと。
  4 居宅介護福祉用具購入費及ぴ居宅介護住宅改修費の支給
  (1)市町村は、要介護被保険者が入浴又は排せつ等の用に供する福祉用具を購入したときは、居宅介護福祉用具購入費を支給すること。
  (2)市町村は、要介護被保険者が手すりの取付け等の住宅改修を行ったときは、居宅介護住宅改修費
   を支給すること。
  5 居宅介護サービス計画費の支給
    市町村は、要介護被保険者が、指定居宅介護支援事業者から居宅サービス計画の作成等の居宅介護支援を受けたときは、居宅介護サービス計画費を支給すること。
  6 施設介護サービス費の支給、
  (1)市町村は、要介護被保険者が、指定又は許可を受けた介護施設から介護施設サーピスを受けたときは、当該指定介護施設サービス等に要した費用(日常生活に要する費用として厚生省令で定める費用を除く。)について、施設介護サービス費を支給すること。
  (2)施設介護サービス費の額は、介護施設サービスの種類ごとに要介護状態の区分、地域等を勘案して算定される平均的な費用(日常生活費を除く。)の額を勘案して厚生大巨が定める基準により算定した額の百分の九十に相当する額と施設における食事提供費から食費の標準負担額(低所得者に対する必要な配慮を行う。)を控除した額の合計額とすること。
  7 特例施設介護サービス費の支給
    要介護認定の効力が生じた日前に、緊急その他やむを得ない理由により指定介護施設サービス等を受けた場合において、必要があると認めるときは、要介護被保険者に対し、特例施設介護サービス費を支給すること。
  8 高額介護サーピス費の支給
    要介護被保険要者が受けた居宅サービス又は指定介護施設サービス等に要した費用の合計額から当該費用につき支給された居宅介護サーピス費、特例居宅介護サービス費、施設介護サービス費及ぴ特例施設介護サービス費の合計額を控除して得た額が、著しく高額であるときは、当該要介護被保険者に対し、高額介護サービス費を支給すること。
 三 予防給付
   予防給付は、居宅支援サービス費の支給、特例居宅支援サービス費の支給、居宅支援福祉用具購入費の支給、居宅支援住宅改修費の支給、居宅支援サービス計画費の支給、特例居宅支援サービス計画費の支給及び高額居宅支援サービス費の支給とし、それぞれ介護給付と同様に所要の事項を定めること。
 四 保険給付の制限等
   保険給付の制限、保険料滞納者に係る支払方法の変更、保険給付の支払の一時差止、医療保険各法の規定による保険料等に未納がある者に対する保険給付の一時差止等に関し、所要の規定を設けること。
第五 事業者及ぴ施設
 一 指定居宅サービス事業者及び指定居宅介護支援事業者
  1 指定居宅サービス事業者及ぴ指定居宅介護支援事業者の指定は、居宅サーピス事業又は居宅介護支援事業を行う者の申請により、居宅サービス事業又は居宅介護支援事業を行う事業所ごとに都道府県知事が行うこと。
  2 指定居宅ザービスの事業及び指定居宅支援の事業の人員、設備及ぴ運営に関する基準は、厚生大臣
   介護が定めること。
 二 介護施設
  1 生活介護施設の指定は、老人福祉法に規定する特別養護老人ホームであって、その開設者の申請が
   あったものについて、都道府県知事が行うこと。
  2 保健介護施設を開設しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならないこと。
  3 療養介護施設の指定は、療養型病床群等を有する病院であって、その開設者の申請があったものに
   ついて、都道府県知事が行うこと。
  4 介護施設の人員、設備及ぴ運営に関する基準は厚生大臣が定めること。
第六 介護保険事業計画
 一 厚生大臣は、介護保険書業に係る保険給付の円滑な実施を確保するための基本指針を定めるものとす
  ること。
 二 市町村は、基本指針に即して、当該市町村が行う介護保険事業に係る保険給付の円滑な実施に関する
  計画を定めるものとすること。
 三 都道府県は、基本指針に即して、介護保険事業に係る保険給付の円滑な実施の支援に関する計画を定
  めるものとすること。
第七 費用等
 一 費用の負担
  1 国は、市町村に対し、介護給付及ぴ予防給付に要する費用の額の百分の二十に相当する額を負担す
   ること。
  2 国は、介護保険の財政を調整するため、市町村に対して、介護給付及ぴ予防給付に要する費用の額
   の見込額の総額の百分の五に相当する額の調整交付金を交付すること。
  3 都道府県は、市町村に対し、介護給付及ぴ予防給付に要する費用の額の百分の十二・五に相当する
   額を負担すること。
  4 市町村は、その一般会計において、介護給付及ぴ予防給付に要する費用の百分の十二・五に相当す
   る額を負担すること。
  5 市町村の介護給付及ぴ予防給付に要する費用の額に三年ごとに定める第二号被保険者負担率(すべ
   ての市町村に係る被保険者の見込数の総数に対するすべての市町村に係る第二号被保険者の見込数の
   総数の割合に二分の一を乗じて得た率を基準として設定するものとし、三年ごとに、当該割合の推移
   を勘案して政令で定めるものをいう。)を乗じて得た医療保険納付対象額については、社会保険診療
   報酬支払基金(以下「基金」という。)が市町村に対して交付する介護給付費交付金をもって充てる
   こと。
  6 国及ぴ都道府県は、介護保険事業に要する費用の一部を補助することができること。
  7 保険料
  (1)市町村は、介護保険事業に要する費用に充てるため、第一号被保険者から攻令で定める基準に従
    い市町村が条例で定めるところにより算定された保険料率に基づき、保険料を徴収しなければなら
    ないこと。   (2)1の保険料率は、概ね三年を通じ財政の均衡を保つことができるものでなければならないこと。
  8 保険料の徴収方法
  (1)保険料の徴収については、年金保険者による特別徴収の方法による場合を除くほか、市町村が第
    一号被保険者等から保険料を徴収する普通徴収の方法によらなけれぱならないこと。
  (2)第一号被保険者が属する世帯の世帯主及ぴ第一号被保険者の配偶者は、保険料の連帯納付義務を
    負うこと。
 二 医療保険者の納付金
  1 基金は、年度ごとに、医療保険者から、介護給付費納付金(以下「納付金」という。)を徴収する
   こと。
  2 医療保険者は、納付金の納付に充てるため医療保険各法の規定により保険料又は掛金を徴収し、納
   付金を納付する義務を負うこと。
  3 各医療保険者から徴収する納付金の額は、当該年度におけるすべての市町村の医療保険納付対象額
   の見込額の総額をすべての医療保険者に係る第二号被保険者の見込数の総数で除して得た額に、当該
   医療保険者に係る第二号被保険者の見込数を乗じて得た額を前々年度分の当該確定額で調整Lた額と
   すること。
第八 社会保険診療報酬支払基金の介護保険間係業務
  基金は、医療保険者から納付金を徴収し、市町村に対し介護給付費交付金を交付すること。
第九 保健福祉事業
  市町村は、要介護被保険者を現に介護する」者等の支援事業、被保険者が要介護状態となることを予防
 するための事業等を行うことができること。
第十 国民健康保険団体連合会の介護保険関係業務
 一 国民健康保険団体連合会(以下「連合会」という。)は、介護保険事業を行う市町村が共同して目的
  を違成するため、次に掲げる業務を行うこと。
  1 市町村から委託を受けて行う要介護認定等に関する審査判定業務
  2 市町村から委託を受けて行う居宅介護サービス費等の請求に関する審査及ぴ支払
  3 一又は共同した二以上の市町村の求めに応じて行う保険料率の算定に関する基準の提示
  4 指定居宅サーピス事業者、介護施設等に対する必要な指導及ぴ助言等
 二 連合会は、介護保険の財政の安定化に資するため、市町村からの拠出金等を財源として、市町村に対
  する必要な交付金の交付その他の援助を行うものとすること。
第十一 介護認定審査委員会
  市町村から委託を受けて審査判定業務を行うため、連合会に、介護認定審査委員会を置くこと。
第十二 介護給付費審査委員会
  市町村から委託を受けて介護給付費請求書の審査を行うため、連合会に、介護給付費審査委員会を置
 くこと。
第十三 審査請求
 一 保険給付に関する処分(要介護認定等に関する処分を含む。)又は保険料、徴収金(納付金を除く。
  )に関する処分に不服がある者は、各都道府県に置かれた介護保険審査会に審査請求をすることができ
 ること。
 二 介護保険審査会は、被保険者を代表する委員、市町村を代表する委員及ぴ公益を代表する委員で組織
 すること。
第十四 施行期日
 この法律は、公布の日から三年を超え六年を超えない範囲内で政令で定める目から施行すること。ただ
 し、次に掲げる事項は、それぞれの定める目から施行すること。
 一 第一の六 公布の日から三月を超えない範囲内で攻令で定める日
 二 第八 平成十一年一月一目
 三 第一 (五の6から9までを除く。)、第二の一、第三、第四(二の6及ぴ7を除く。)、第五の一並
  ぴに第六から第十四まで 平成十一年四月一目
第十五 検討
 一 介護保険制度については、この法律の施行後における介護を要する者等に係る保健医療サービス及ぴ
  福祉サーピスを提供する体制の状況、保険給付に要する費用の状況、国民負担の推移、社会経済の情勢
  等を勘案し、並ぴに障害者の福祉に係る施策、医療保険制度等との整合性及ぴ市町村が行う介護保険事
  業の円滑な実施に配慮し、被保険者及ぴ保険給付を受けられる者の範囲、保険給付の内容及ぴ水準並ぴ
  に保険料及ぴ納付金(その納付に充てるため医療保険各法の規定により徴収する保険料又は掛金を含む
  。)の負担の在り方を含め、その全般について検討が加えられ、その結果に基づき、必要な見直し等の
  措置が講ぜられるべきものとすること。
 二 政府は、この法律の施行後、保険給付に要する費用の動向、保険料負担の状況等を勘案し、必要があ
  ると認めるときは、居宅サーピス、介護施設サーピス等に要する費用に占める介護給付等の割合につい
  て、検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとすること